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俺があいつを見返す日。

ある一言をきっかけに、ある人物を見返すきっかけとして立ち上げました。日々のことから夫婦のこと、子育て、商品レビューなど、なんでも掲載します。

ハゲだからハゲではないんだな。

エッセイ

朝の通勤時の話です。

私の前を推定40代後半と思われるスーツ姿の男性が歩いてたんです。
その男性は細身で姿勢が良く、歩き方も颯爽としていました。だからなのか、後ろからなので顔は見えないものの、全体から滲み出る雰囲気からは「イケメンで仕事も出来そうなナイスミドル」の印象を受けました。
便宜上、以後その方を「ダンディ」と表記します。私にそこまで言わしめるほどの逸材と思っていただいて構いません。

ただ。
いや、「ただ」と言っては大いに語弊があるのでしょうけど、残念ながらダンディは頭のてっぺんが少々薄かった。いわゆる「薄毛」ですね。
いやだから「残念」でもない。ダンディとて別に自分でむしり取ったわけではないのだろうから、摂理。そう、自然の摂理です。

しかしさすがはダンディと言うべきでしょう。多少の薄毛など彼にとってはマイナスにもならない。むしろ
「えっ? おまえ薄毛なのによくぞここまでダンディになれるな。おまえはショーン・コネリーか!」
と、ヘタなツッコミを入れてしまうほど、薄毛がプラスに作用していました。恐るべき剛の者よ。

さて。
私はなんとなくダンディの後ろ姿を視界に入れながら歩いていたのですが、唐突にダンディが道に唾を吐いた……ように見えたのです。
確証はなかった。私もダンディをずっと凝視していたわけではないからです。

私は道に唾を吐く人間を許容できません。道に唾を吐く人でも自分の家の床には決して唾を吐かないはずです。天下の往来は自分のものではないので汚れても構わない。そういう思考回路が働いているからこそ道に唾を吐く。下劣です。

一旦ダンディが唾を吐いたかもしれないという疑惑を抱いてしまった以上、もはや手放しで「ダンディ」とは言い切れない恐れが出てきてしまいました。
この瞬間、私の中で「ダンディ」は「ダンディ?」に変わりました。

気持ちに折り合いがつかぬまま歩き始はじめると、信号が赤に変わりました。そして事件は起こった。彼の両手が口元に集まったのです。
嫌な予感がした。まさかとは思うがダンディ、お前!?

ダンディ?はタバコに火を付けた……。

皆さんに残念なお知らせをしなくてはなりません。いまこの瞬間、ダンディ?はもう私たちの知っているダンディ?ではなくなりました。
私も元は喫煙家。だからと言うわけではないですが、一概にタバコを否定する立場はとっていません。
しかし他者を顧みず、ところ構わず歩きタバコをする人間を私は嫌悪しています。そいつの前に躍り出て歩きウンコをし、そのウンコを全身に塗りたくってやりたいほどに、狂おしく嫌悪しているのです。
この刹那、私の中で「ダンディ?」は軽蔑の念とともに「ハゲ」に変わりました。

ここからのハゲのコンボがすごかった。歩きタバコ副流煙を方々に撒き散らしかと思えば、唾を吐き、短くなって火のついたタバコを投げ捨てたあと、最後は信号無視をして颯爽と去っていった。

一体なんだったんだあのクソハゲは……。
最初はややてっぺんが薄いだけのダンディだったのではなかったか?
それが道に唾を吐き、歩きタバコにポイ捨て、あげく信号無視という暴虐の限りを尽くした結果、彼はハゲに堕ちた。堕天使だ。
彼がそのまま普通に歩いていれば、ダンディはダンディのままだったのではないか?

ダンディ」→「ダンディ?」→「ハゲ」と、出世魚のごとく伸び名を変えられた元ダンディよ……。
お前が薄毛だからハゲと呼ばれたわけではない。お前の人間性が、私に侮蔑の念をもって「ハゲ」と呼ばせたのだ。

もちろんそのような言葉を赤の他人に使う俺もまた堕天使。

しかしあえて言おう。
お前がこのままハゲとして生きるか、薄毛のダンディとして生きるか、それはお前の今後にかかっている。

ゆめゆめ勘違いなきよう。