俺があいつを見返す日。

ある一言をきっかけに、ある人物を見返すきっかけとして立ち上げました。日々のことから夫婦のこと、子育て、商品レビューなど、なんでも掲載します。

「人助けをして本当に良かった」と思えた話。

おととしの家族旅行の時です。

泊まっているホテルの大浴場で、お年寄りが倒れるのを目撃したんですよ。
倒れるというか尻もちをついたというか。イメージとしては「立ち会い直後、朝青龍の張り手で失神する栃東の真似をするあかつ」です。

https://youtu.be/vzxtE4p2l1Y

自力では立てないみたいだったので、近くにいた従業員さんと二人で肩を貸して脱衣所までお連れしました。

 

ご老人の身体を支えながら着替えを手伝ったんですけど、自分の倍はあろうかという年齢の方にパンツを履かせたのはその時が初めてです。

その間、従業員さんは電話で応援を呼んでいました。

その後、ご老人は応援に来た従業員さんが用意した車いすに座り、「にいちゃん、ありがとねぇ」と言って去って行きました。

 

介抱中ずっと裸だったわたしは体が冷え切っちゃいましてね。体を温め直そうと浴場に向かったんです。
その時です。従業員さんが声を掛けてきたのは。

「どうもありがとうございました。あの、お客様のお部屋番号は……?」

あのね。
それまでは「人助けができて良かったな」くらいにしか思ってなかったんですよ。これほんと。天地神明に誓って。神は信じていないけどね。
謝礼のことなんて頭の隅にもなかったのに、お恥ずかしい話ですがこの瞬間、強烈な欲がわたしを支配したんです。

そう考えたらもう止まりませんよ。わたしの中の期待値は一気に最高潮です。
わたしは震える声で聞きました。

「わたしの部屋番号を? どうしてですか?」

「後ほど改めてお礼をと思いまして」

き、来た……。
この一言を待っていた。
夢にまで見たアレが叶う!
一生言わないであろう言葉、でも一生に一度は言ってみたかった言葉、それがいま言える!!

「名乗るほどのもんじゃございやせんよ!!」
センヨー
センヨー
センヨー

更衣室に私の大声がこだましました。テンションが最高潮でしたからね、本当にかなり大きな声だったはずです。

ござい「や」せんよ。この「や」がポイントですから。これが「ま」じゃダメですからね。

そんな風に一人悦に入っているわたしを意にも介さず従業員さん、

「いやあのそういうわけには」

真顔で言われちゃってんのわたし。何この温度差恥ずかしい。ノれよ、ノってこいよ従業員さん!そこで「な、なんという清々しいお方だ」とか言えよ。そんでわたしのこの振る舞いを後世までの語りぐさとして当ホテルで代々受け継げよ。

食い下がる従業員さんに

「本当にいいんです。この言葉が言えただけでもう満足なんです。一度言ってみたかったんです……」

そう言って謝礼は丁重に辞退させていただき、わたしは一人静かに大浴場に消えていったのでありますよ。