俺があいつを見返す日。

俺があいつを見返す日。

わたしがある人を見返すための意思表明として立ち上げたブログです。日々のこと、夫婦のこと、子育て、商品レビューなど、なんでも。

ハト。

 香川県の坂出から、マリンライナーという列車で岡山まで戻った。岡山から新幹線で東京へ帰るためだ。


 前日から現地入りし、打ち合わせに次ぐ打ち合わせでわたしの疲れはピークに達していた。乗るべき新幹線の到着まで50分以上あったので、わたしはホームの一番端にあるベンチでグッタリとしていた。


 ふと視界の左側に何かの気配を感じた。見るとハトだった。3羽のハトが5メートルくらい先から歩いてくる。その歩みは遅かったが、着実にわたしに向かって進んでくるように見えた。

 

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 何だろう怖い。別にゴリラが徒党を組んで突進してくるわけでもないのに。5メートル先から3羽横並びで脇目も振らずに自分に向かって歩いてこられると、いかに小型鳥類とはいえ異様に怖い。その時のわたしは、これから始まるであろう何かに怯えていた。

 

 そして奴らは来た。

 

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 わたしからわずか1メートルほどのところで歩みを止め、物欲しげな目でわたしの顔を覗き込んだ。他には誰もいない事から推測するに、その視線はわたしに向けられていると解釈するのが妥当だ。


「マメか・・・」


 わたしは一人つぶやいた。しかし前述したように、その時のわたしにはハトごときにマメをやる余裕は、精神的にも肉体的にも、もちろん金銭的にもなかった。

 それにわたしはやけに人間慣れしたハトが苦手だ。野生動物のくせにギリギリまで人間に近づかれても、羽をバタつかせて距離を取るだけで決して飛んで逃げようとはしない。平和の象徴のくせに平和ボケしたお前らを見ていると無性にイラッとする。お前らなんかにマメなどやるものか。砂でも食ってろ。


 しかし奴らは3羽で俺を取り囲むようなフォーメーションを展開し 『逃がさねぇぞ』 という意思表示をありありと示してきた。おもしろい。わたしと一線交える気かえ。

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 しばらくはハトとわたしの 『マメクレ』 『やらねぇ』 という、目には見えない緊迫した攻防が続いていた。しかしそんなハト共の目を見ている内に、徐々にではあるがわたしの心に変化が生じ始めていた。

 こいつらは短い足を必死で交差させてわたしのところまで歩いてきたではないか。その翼で飛んでくればあっという間だというのに、何故か徒歩でだ。


 その馬鹿さ加減に敬意を表し、わたしはハト共にご褒美をやるべく近くの売店に向かった。柿ピーがある。ハトだからマメは喰えるだろうが柿のタネはどうか? 知ったこっちゃないから買ってみた。その時のわたしには、辛い柿のタネを喰ってもだえ苦しむハトを見たいという欲求が湧き上がっていた。疲労困憊したわたし心に悪魔が首をもたげた瞬間だ。

 

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 わたしはある種の高揚感とともに早足で元の場所に戻った。

 ハトはすでにいなかった。
 ホームには、柿ピーを握り締めて呆然と立ち尽くしているわたしだけが存在した。

 

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 生暖かい風に吹かれながら、大きな脱力感に襲われたわたしは、柿ピーをそっと上着のポケットに入れた。


「・・・んだよ」


 そしてまた、一人ホームのベンチでうなだれるのだった。


 わたしはハトが苦手だ。