俺があいつを見返す日。

俺があいつを見返す日。

わたしがある人を見返すための意思表明として立ち上げたブログです。日々のこと、夫婦のこと、子育て、商品レビューなど、なんでも。

サムライの遺伝子を継ぐ者。

 今は昔、出勤時に高確率で遭遇する男性ありけり。ダークスーツを身にまとったスマートな体型。見たところ70歳は過ぎていたと思われるが、背筋は真っ直ぐで足取りも頼もしい。まだまだ豊かな白髪にハットを乗せて颯爽と歩く、いかにも老紳士然とした男性だった。例えるならおヒョイさんこと故・藤村俊二さんといったところで、抜群に格好が良かった。もし叶うのなら、わたしもあんな風に年を取りたいと思ったのを覚えている。

 

 しかしこの老紳士、非常に残念なことに一つだけタチの悪い癖があった。それはそうだ。そうでなくては。わたしのこのヨゴレなブログに登場するくらいだぞ。格好の良い老紳士というだけで登場できると思うか。ナメんな老紳士。

 そして老紳士の悪癖とは、傘を水平に持って歩くことだった。


 もういい加減教えて欲しい。一体何のつもりでやっている? もしかして自分のテリトリー的なモノを守るための本能的なアレか? 或いは屁でもスカしたから半径1.5メートルは近づいてくれるなとかいう恥じらいから来るソレか? ジジィこーの野郎、そんなことを恥じらうくらいなら初めから屁などスカすんじゃない。


 テリトリー的なアレでも屁的なソレでも構わないけれどもね、危ねえのよ単純に。しかもなまじ歩き方が颯爽としている分だけ腕の振りも豪快で危険極まりねぇ。考えろよ。少し考えればその傘の持ち方が危険であることは容易に想像が付くはずじゃないか。なぜそこに気が付かない。なぜそれを自覚しない?


 分かったアレだ。まことに失礼ながらこの老紳士は、きっとあまり人口の多くない土地から出てきたばかりで都会暮らしは日が浅く、人が密集することにより発生する幾つかの諸問題に対応できていないだけなんじゃないか。だから周りの人との適切な距離感が掴めず、傘を水平に持つことの危険性にも気が付かないのでは。


 それならば仕方がない。都会暮らしに慣れてくればそのうち自然と気付くことでしょう。いつの間にかわたしは、謎の上から目線で老紳士を見守る心の余裕ができていた。しかしそんなわたしの目に驚愕の場面が飛び込むことになる。当該老紳士がおもむろにスマートフォンを取り出し、超高速フリック入力を始めたのだ。


 おいジジィだましやがったな。みんな気を付けろ。どうやらジジィは都会ぐらしに不慣れどころか、このコンクリートジャンゴーでアーバンライフを満喫している相当の手練だぞ。

 それならばもう手加減することはない。我慢の限界が訪れていたわたしは行動を起こした。ジジィに己の傘が危険であることに気付いてもらうため、そっと後ろに付き、老紳士が振りまくっている傘に自分の傘をガツンとぶつけてみた。

 すると老紳士はゆっくりと振り向きわたしの顔を見た。決して威圧的ではなく穏やかさすら浮かべる目元だったが、わたしはその奥に隠れている凄まじいまでの眼光を見逃さなかった。その目はまさに、己の魂である刀を守る武士のそれだった。


 わたしはそれ以上何も出来なかった。そして悟った。この老紳士、サムライの遺伝子を継ぐ者。


 とっぴんぱらりのぷう。