俺があいつを見返す日。

俺があいつを見返す日。

わたしがある人を見返すための意思表明として立ち上げたブログです。日々のこと、夫婦のこと、子育て、商品レビューなど、なんでも。

続・スパイシーでスモーキーなコンビニバイトの思い出。そしてスケルトン子。

「ねー。おとうさんって昔コンビニでアルバイトしてたんでしょ?」


 娘たちの何気ない質問に、わたしはとあるコンビニでバイトをしていた高校時代に思いを馳せた。

 そして思い出すことになったのだ。わたしが後に憎しみを込めて『スケルトン子』と呼ぶことになる、あの女のことを。


〜前回の続き〜



 あるバイトの日だ。いつもの通り列をなすお客さんのレジ対応をしていると、高校生くらいの女の子の順番になった。全盛期の藤原紀香さんの顔面を正面から思いっきり張り倒す0.5秒前みたいな顔をした、美人なのかそうじゃないのか、恐らくは広義で美人なんだろうなという女の子だった。以後は便宜上、この女性を『紀香』と表記する。


 わたしは「いらっしゃいませ」と応対したが、紀香は買うべき商品を手に持っていない。不思議に思っているわたしに紀香が話しかけてきた。


紀「あのー、付き合って欲しいってコがいるんですけど」


私「えっ?」


 紀香は店の外を見やった。ハッキリとは見えないが、確かに外の駐車場に女の子らしき人影が見えた。


紀「ダメですか?」


 お前のアタマには馬糞でも詰まってんのか? ダメも何も当の本人がここにいねえだろ。お前まさか物件の下見もさせずにマイホームを売りつけるつもりじゃあるまいな。寝言をぶっこくんじゃない。


紀「え、ダメ?」


 え、不思議か? 私が即答できないでいるのってそんなにおかしい?

 紀香の後ろでレジ待ちをしているおねえさんはニヤニヤして見ているし、取り敢えず 「他のお客さんも待ってるし、いま仕事中なんで」 と言うのがやっとだった。


紀「バイト何時に終わるんですか?」


私「22時」


 紀香は頷いて店を出て行った。


 紀香の後ろで待っていたおねえさんは「モテモテだね」と言って商品をレジに置いた。レジを打ちながらわたしが「おねえさんみたいなキレイな人だったら即OKなんですけどね」と言うと、「うれしいこと言うじゃない。じゃ、このあと私の部屋に来る? 22時でしょ? あと少しだから外で待ってるよ」「ユンケル買ってから行きますね」「んもう。バカね」なんてやり取りを高校生男子が出来るはずもなく、わたしはそのままバイトを続けて22時を迎えた。

 

 バイトを終えて店の外に出ると、駐車場の端の方に紀香がいた。紀香の横には、『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』のジャック・スケリントンにストッキングを被せて5センチだけ上に引っ張ったような顔をした、美人だか故人だか分からない、恐らくは広義で故人なんだろうなという女の子がいた。以後は便宜上、彼女を『スケリン』と表記する。

 

 

 

 紀香は自分の横にいるスケリンを軽く紹介したあと「さっきの続きなんだけど、どう?」と早速切り出してきた。


 だからなぜそんなに急ぐ? スケリンとわたしはまだロクに会話もしてないじゃないか。それどころかまともに顔を見合わせてもいない。紀香はなんぞスケリンに弱みでも握られているのか? 右足の親指の爪が異様に臭いことをバラされたくなくば、アタシとこの男との中を早急に取り持てとか。怪しいな。


 いずれにしても、わたしはスケリンと付き合うつもりはなかった。当時のわたしには生き甲斐として打ち込んでいることがあり、わたしにとってそれ以外のことは全て雑事に過ぎなかったのだ。勉強も恋愛も。大好きなゲームでさえもだ。


「取り敢えず今は誰とも付き合うつもりはないんだけど」


 わたしが紀香とスケリンのどちらにともなくそう言うと、ここで初めてスケリンが口を開いた。


「じゃあ友達からならいいんですか電話番号教えてもらえますかバイトの曜日と時間はいつなんですか!!!」


 コーションワーニンデンジャラース。

 わたしの全身のアラームが同時に最大音量でけたたましく鳴りまくった。これはヤヴァイ物件だ。逃げろ逃げろぉーぅ。


 わたしの太古の本能が最大級の警告で今すぐ逃げろと言っていた。にもかかわらず、なぜかわたしはスケリンの言うがままに電話番号とバイトの予定、そして友達から始めることを了承してしまったのだ。


 きっとビビっていたのだと思う。スケリンの勢いにわたしは恐怖し、完全にひれ伏してしまったのだ。例えるなら冬眠から目覚めたばかりのヒグマが、わたしの目の前数センチで口を開けている状況。圧倒的な絶望感。この相手にはそもそも話が一切通じないという恐怖。ヤンキー10人に囲まれた方が、言葉が通じる分だけまだマシと思わせる、スケリンの問答無用のお手上げ感。


 それからの日々は地獄に等しかった。昼夜を問わず毎日のようにスケリンから電話がかかってくるし、わたしがバイトの日には必ず買い物に来て、バイト終わりまで外で待っているようになった。

 わたしはそれらスケリンの猛プッシュをのらりくらりと交わしていたが、ある日のバイト終わりにお弁当を渡された時、わたしの我慢が限界に達した。


「あのさ。お弁当作ってくるとか、これもう友達とかじゃないでしょ。やめてくれないかな」


 わたしがそう言うと、スケリンは「すいません……」と、消え入るような声で夜の闇に去っていった。

 その姿を見送りつつ、わたしは罪悪感と自己嫌悪に押し潰された。スケリンの勢いに圧倒されたとはいえ、電話番号を教えたり、友達からなどと思わせぶりで曖昧な態度をとってしまったのはわたしなのだから。

 

 それ以来、スケリンからの電話はなくなり、スケリンがバイト先に顔を見せることもなくなった。わたしはといえば、依然として罪悪感に苛まれる毎日ではあったが、平穏な日常を取り戻せたことに喜びも感じていた。

 

 だが、それもつかの間のことだった。


 スケリンが顔を見せなくなってから一週間ほど経ったある日のバイト終わり。スケリンがわたしの前に現れた。両わきに同級生くらいの男二人を付き従えて。


男A「お前かよ。スケリンのこと泣かせたってやつは?」


男B「お前、いい度胸してんじゃん。ちっと顔かせやコラ」


 そう。世にいう『お礼参り』というやつだ。こんなマンガのような展開が本当にあるから世の中怖い。

 しかしこれはヤヴァかった。男たちがどれだけ腕利きかは知らないが、弱いヤツらでも二人はマズい。そんなもん、現実はジャッキー・チェンの映画のようにはいかないぞ。


 わたしは助けを求めるようにスケリンを見た。するとスケリンは一言、


「やっちゃってよコイツ」


 そこにいたのはスケリンではなかった。『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』のジャック・スケリントンにストッキングを被せて全力で引っ張り上げたような顔をした、美人だか故人だか広義に解釈せずとも完全に故人と化した悪夢の女だった。

 この瞬間、わたしの中でスケリンは『スケルトン子』に変わった。やぁこんばんは。やっと逢えたね。


 わたしがスケルトン子の豹変ぶりに固まっていると、男Aが言った。


「おまえちょっと向こうの公園まで顔貸せよ」


 そして男2人はわたしに背を向けてスタスタと前を歩き出した。この瞬間、わたしは勝利を確信した。コイツらは大したことはないと。

 なぜなら、敵であるはずのわたしに対して背中を向けたからだ。ケンカ慣れしているなら、逃げられないようにわたしを挟むか、或いは押さえつけて公園に連行するはずだ。

 わたしがおとなしくお前らに付いていく保証がどこにある? お前らとは逆方向にダッシュして逃げてもいいし、あるいはそのまま店内に戻って店長に助けを求めることもできるのだぞ。


 しかしわたしはそのどちらも選ばず、男Aの背中を後ろから思い切り蹴った。わたしの長渕ばりのケンカキックに、男Aはロクに受け身も取れず前のめりに倒れた。

 わたしはその勢いのまま、返す刀で男Bに向かって叫んだ。


 「テメーはどうすんだぇーコラぇーやんのかぇー!!」


 わたしの声は震えていたと思う。中ラン背負ってボンタン履いていても、それほどケンカの経験があるわけではなかったし。

 だが男Bは完全に戦意を喪失し、地面に座り込んだまま動かなくなった男Aを見ているだけだった。


 わたしは男Aの戦意が回復する前にその場を走り去った。スケルトン子がどういう顔をしていたのかは分からない。そんなものを確認する余裕など、わたしにはなかった。

 

 それからしばらくはスケルトン子の報復を恐れてビクビク暮らしていたが、幸いなことに何も起こらなかった。きっとスケルトン子は別のターゲットでも探し当てたのだろう。 誰かは知らないがその人に言いたい。その女はコーションワーニンデンジャラスだから気をつけられたし。


 コンビニでのバイトも、店長が他の店に移るのに合わせてやめた。

 こうしてわたしのコンビニバイトは終わりを告げた。いい思い出も悪い思い出も沢山あったが、とりわけこのスケルトン子の思い出は忘れられない。


 ちなみにあの時スケルトン子が作って来てくれたお弁当はたまごサンドだったが、悪いがどうしても食べる気になれずにいた。するとオフクロが「ならあたしが食べるわ」というので与えたら「ぐえーすっぺえー」ともんどりうっていた。いったい何が入っていたのか。


 そして最後に告白すると、『呪われし血族』といわれたスモーキーなバイトとは、わたしのことだ。