俺があいつを見返す日。

俺があいつを見返す日。

わたしがある人を見返すための意思表明として立ち上げたブログです。日々のこと、夫婦のこと、子育て、商品レビューなど、なんでも。

サイゼリヤでキツネに化かされた話。

ゆえあって午後に半休を取ったわたしは、家路についていた。


お昼は何を食べようか。駅前のラーメン屋さんでつけ麺を入れたいところだが、ここ最近の過剰な摂取カロリーを考えるとそうもいかない。

仕方がない。ここはまっすぐ家に帰っておとなしく納豆ご飯でも食べようか。

だがせめて生卵は入れよう。あとこの前買った韓国のりと揚げ玉も入れて、セレブ御用達の納豆ご飯と洒落込もう。これくらいの贅沢は許されるだろう。


わたしは納豆ご飯に生卵を入れることが多いのだが、その度に『わたしがいま食べているのは納豆ご飯か卵かけご飯か』という、古代ギリシアの哲学者達をも悩ませた無益なジレンマに陥る。


『卵が先か鶏が先か』などという問題は即答で「どっちでもエエがな」で終いだし、『打ち上げ花火を下から見るか横から見るか』については「打ち上げ花火より今は君を見ていたい」と言えばその日はセックスに持ち込めるかもしれない。


だが『カレー味のウンコかウンコ味のカレーか』は、どの辺が究極の選択だったのか未だに分からない。

なぜならその手の趣味がある場合を除き、カレー味だろうがウンコを食した時点で「どうしたぁ。おめえウンコ食ってんぞぉ」とカカロットに指摘されてしまうからだ。ウンコ味でもカレーはカレー。従ってこの問題は究極の選択にはなり得ないはずだ。

 

そんな事を漠然と考えながら歩いている内に、見慣れた我が家が見えてきた。

わたしはズボン? パンツ? ボトムス? 何でもいいが、下半身を覆う二股状の衣類の右前ポケットに手を差し込んだ。

何だこの柔らかいブニブニしたモノは。あぁそうか。わたしの下腹部の贅の限りを尽くした肉、即ち贅肉の感触だ。

そんな事はどうでもいい。ないぞ。家の鍵がない。


おかしい。なぜだ。いつもはここのポケット入れているはずなのに。

そうだ。昨日の夜にズボン? パンツ? ボトムス? 何でもいいが、下半身を覆う二股状の衣類を新しいものに交換した。その時に家の鍵をどこかに置いたままにしてしまったらしい。


どうしよう。家に入れない。

奥さんはいない。今日は遠方から出てきた友達と都心でお茶をしているのだ。

めったに会えないその友達とお茶をするというのに、娘たちもいるから夕方になる前に帰ってくるなどというものだから、わたしはビシッと言ってやった。


めったに会えない友達なら、お茶などと言わずにどうぞ夜遅くまで、鼻血がでるまで楽しんできて欲しい。

自分の身の安全に配慮さえしてくれれば、何ならオールで朝帰りでも構わない。

娘たちなら、わたしが午後に半休を取って家で待機しておくから大丈夫。夕食もちゃんと食べさせる。何も心配いらない。

奥さんにそう提案した。

皆さんはご存じないかも知れないが、わたしという男性は存外に優しいのだ。


初めは遠慮してわたしの提案を受け入れようとしなかった奥さんも、「それじゃダメか?」と取手クンばりのあすなろ抱きを繰り出したわたしに「掛居クンには内緒だぉ?」とノリノリで返してきたから「テメ調子のんなやババアがっ」とボディに一発イイやつをお見舞いして提案を承諾させてやった。

従って奥さんは夜遅くまで帰っては来ぬ。


ちくしょう。わたしがこんな事になっているのに、のうのうと都心でお茶など飲みくさりやがって。あんな提案などしなければよかった。

そうすれば今頃は家で撮り溜めたドラマを観ながらご飯を食べたあと、エッチな動画を観て右手を下半身にそっと滑り込ませていたことだろう。

いや、今日は少し浮気して左手にしてみようか。ポイントを分かっている慣れた右手もいいが、少し動きのぎこちない左手もまた新鮮な刺激でたまらない。フフ。フフフ。


15時を過ぎれば次女が学校から帰って来ているはずだが、この時点で時刻は13時10分。まだ1時間以上もある。どこかで時間を潰す必要があった。

かといって、このまま家の前でウロウロしていては不審者認定で通報されてしまう恐れがあった。

我が家の近くで時間を潰すといえば、徒歩10分ほどのところにあるサイゼリヤくらいか。

 

サイゼリヤの店内は混んでいたが、中年男性一人が入るにはさほど苦労はしなかった。

二人がけのテーブルに案内されたわたしは、対面の椅子に荷物を置いた。

席についた途端、自分が相当な空腹であったことに気が付いた。

わたしは手早くいくつかの料理と、それとドリンクバーを注文した。


さっそくアイスコーヒーを入れ、テーブルに戻って一息つく。

元来、わたしは超が付くほど独りが苦手である。そんなわたしが1時間以上も独りファミレスで過ごすのは拷問に近い。

しかも注文した料理を食べ終わった後に、そのままコーヒーなどを飲みながらお店に居座るのがものすごく苦手だ。

特に今のように混んでいる時間帯は、待っている他のお客さんに申し訳なくなってしまう。こんなところでは存外に優しいわたしの性格は仇となる。


何となくスマホを触っている内に、注文した料理がテーブルに揃った。ほぼ満席といえる状態にもかかわらず、料理の提供が迅速なのはさすがだ。

店員さんが透明な筒の中に伝票を丸めて入れていった。


とりあえず腹を満たそうと、カトラリーケースからフォークを取り出した時。ふとテーブルの端に置かれた伝票に目が向いた。伝票の最下部に、17という数字が見えた。

17……え?

わたしは手にしたフォークをいったん置き、伝票を手に取って見た。


「バカな……」

1,708円。伝票にはそう印字されていた。


わたしは対面の席を見た。誰も座っていない。当たり前だ。わたしは一人でこの店に来たのだから。

ということはだ。わたしは今日どこかのお店のキャバ嬢さんと同伴しているわけではないらしい。


ではなぜこんなに高い? わたし一人で1,700円? あり得ない。ミラノ風ドリア5個とドリンクバーでまだお釣りが来る金額だぞ。


なぁ。教えてほしい。サイゼリヤは安価なイタリアンレストランだったハズではないのか。

あれはわたしの記憶違いか? それともここはロイヤルホスト藍屋か。あるいはレッドロブスター? ライブロブスターください。レギュラーで。

いや、間違いなくここはサイゼリヤだ。

ちなみにサイゼリアじゃなくてサイゼリヤなので注意されたし。


そんな豆知識はどうでもいい。

誰かわたしが理解できるようにこの事態を説明してくれ。

わたしは今、キツネにでも化かされているのか?

通路を隔てた向かいのテーブルで女子会を開いている若いママさん方も。

前のテーブルで自身の健康について話していらっしゃるご婦人方も。

後ろのテーブルで小舟を漕いでいるサラリーマンも。

お前ら全員キツネで、俺のテーブルに伝票をツケているのではあるまいな?


わたしはもう一度手元の伝票に目を移した。

 


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あ、食い過ぎか。