俺があいつを見返す日。

俺があいつを見返す日。

わたしがある人を見返すための意思表明として立ち上げたブログです。日々のこと、夫婦のこと、子育て、商品レビューなど、なんでも。

『三匹の女子中学生』に困っている。

わたしが毎朝の通勤で乗っている電車の車両に、女子中学生3人が乗り込んで来るようになった。


この3人に、わたしはほとほと参っているんだ。

 

乗り込んでくるといっても、鉄パイプや釘バットを携えての世紀末的なアレじゃない。


でもいつ来るともしれない終末世界を生き抜くために、北斗神拳を習いたい。


北斗神拳は一子相伝だから、ゆくゆくは後継者争いが勃発するのは懸念だけど。


でもそれは遺産相続とかも同じか。

仲の良かった肉親や親類縁者がドロッドロの骨肉愛ハム争いを繰り広げるし。


骨肉愛ハムってのは骨肉相食むの誤変換だけど「私達は肉も骨も全て無駄には致しません」的な意識高めのハムメーカーっぺえ


人気商品は『ゴリゴリソーセージ』。愛称はゴリソー。

肋骨や大腿骨を贅沢に混ぜ込んだ、文字通り骨のある商品。

ゴリソーのチョリソー。ゴリソーのチリソー。ゴリソーのトルソーには絶対に服を着せたくないよね。

 

ごめん話が脱線した。

北斗神拳についてだった。


北斗神拳ってのは一子相伝だから、後継者問題が必ず勃発するってことだよ。


そう考えると妥協して鼻毛真拳くらいがちょうどいいのかもしれない。

でも今となってはアフロに出来るほどの潤沢な毛量がわたしに残されていない事が目下の悩みではある。

 

たわけ違う。わたしの悩みはそんな事ではなかった。

わたしと同じ電車に乗り込んでくる3人の女子中学生に困っているんだよ。


わたしは電車に乗ると、いつも三角コーナーに陣取る。

三角コーナーとは、扉の横と座席の端に形成される人類史上最高峰のセーフティーゾーンを指す。

キッチンのシンクでいえば生ゴミを放る場所だ。


生ゴミを冷凍庫で凍らせるって聞いたことがあるんだけど。

ムリじゃね? 何言ってんのさ。生ゴミだよ? 


そりゃ腐る前に凍らせりゃ、ただの食べ残しだってのは分かってるけど。

でもダメ。涙が飾りじゃないように、気持ちも理屈じゃないのよ。

その生ゴミ予備軍に他の食材を隣接させる勇気が出ない。


腐ってないんだしビニールに入れてあるんだから大丈夫じゃんって言われてもね。

じゃあサランラップで茶巾しぼりに包んだウンコを口に含んでコロがせますかってハナシ。

 

全然本題に入れないじゃんか。

時間ないんだよ。溜まったドラマを観なきゃいけないの。

これからやっとラジエーションハウスを観ようかってくらいなんだからさ。わたしはまだ時代に追いついてないんだよ。


わたしは電車に乗ったら三角コーナーに陣取るって話だよ。

三角コーナーが好きなんだ。あそこは完璧な居心地が約束されたユートピアなんだよ。


だからたまに先客がいたりすると、意図せず「ツッ」くらいのローカロリーな舌打ちをお見舞いしてしまうことがある。

そしてそんな自分の度量の狭さに落ち込む。


でもそんな時は、普段は使わない会社の食堂をたまに利用した時に、

「そこオレっちの席なんだけどよぉ」

とかホザいてくる現場のベテランじじいを思い出し、

「俺はあれほどタチ悪くないよな」

と思い直して元気を出している。


お前の席じゃねえ。お前がいつも座っている席だ。勘違いすんな。

 

わたしが電車に乗ってから、二駅目に冒頭の女子中学生3人が乗ってくる。

彼女らは乗ってすぐ一ヶ所に集まり、少し乱れた言葉遣いで早口の会話を始める。

友達がどうだ先生がなんだクラスの男子がああだ部活の先輩がこうだ……。

彼女らが降りる数駅先まで、その会話は止めどなく淀みなく続く。


それだけなら日本中のどこにでも見られる朝の光景に過ぎない。

でも一つだけ問題がある。それは彼女たちの集まる場所だ。


わたしを三方向から取り囲むようにして集まってくる。

しかもその距離が異様に近い。

江戸からの距離が近すぎるゆえに、一年ではなく半年おきでの参勤交代を余儀なくさせられた関東諸藩くらいの近さだ。


わたしに最接近している右隣の女子とは15cmほどしか離れていまい。

お互いが少し手足を動かしただけで、容易に肌が触れ合ってしまう距離だ。


その距離感で会話を始めるものだから、三角コーナーにいて逃げ場のないわたしは、強制的に彼女らのグループに組み込まれちゃっている。


女子中学生3人+45歳おっさんの巻。

これがまぁ落ち着かないことしきりだ。


彼女らの会話に笑ったり頷いたりしなきゃならないような同調圧力を勝手に感じてしまう。

オデッサ防衛戦において黒い三連星が操るトリプルドムと対峙した時のガンダムの恐怖が、数十年の時を経て今やっと分かった。

 

さらに怖いのは周囲の目。

女子中学生のグループに無理やり近づいているおっさんと思われてしまうかもしれない。


もし彼女たちが騒ぎ出そうものなら、世間様は絶対にわたしを信じてはくれまい。

わたしは線路に逃げ、何万人の足に影響を与えた迷惑犯となる。いや、迷惑ハンハンかもしれないし、最悪なら迷惑ハハンハンだ。

とにかく人生終わり。冗談じゃないゾ。

 

それよりもだ。

わたしの正面に位置する女子が、わたしのことを時々睨んでくる。

当座のところ、これが最も厄介なんだよ。


予想だけど、わたしのスマホを操作する時の姿勢が原因ではないかと思う。


わたしは知る人ぞ知る姿勢が良い人なんだ。

気持ちというのは姿勢にあらわれる。落ち込んだり自信がなければ猫背にもなる。


であれば逆に、姿勢を良くすればそれが気持ちにあらわれ、自信と元気が出てくるのではあるまいか。

わたしはそう信じて、10代の頃から常に胸を張って姿勢よくすることを信条として生きてきた。


でもあまりに姿勢が良すぎたらしい。

こないだH&Mの洋服売り場を歩いている時に、姿見に映った自分を見たら、胸を張るを通り越してそっくり返っていた。


このまま順調にいけば来年の夏頃には背中がポリっと折れていなければ計算が合わない。

そんな危機的状況を回避するために、いまNASAとハリー・スタンパーことブルースオヤジが動いている。

 

それくらいに姿勢に気を付けるわたしだから。

スマホを操作する時は、姿勢が悪くならないようにスマホを顔の正面にかざすようにしている。


でもこの姿勢でのスマホ操作は、わたしの対面にいる人にとっては自分が盗撮されていると思うらしい。

事実、過去には不審な目で見られたこともオーフンだ。

 

フザケやがって小娘が。

俺はお前らが乗ってくる前からここに勃ち、間違えたここに立ち、ずっとこの姿勢でスマホを見てんだよ。

お前らが後から乗ってきて、勝手に俺の近くに陣取って話し始めてるんじゃないかよ。


俺は45歳だぞ。それなりにそれなりな経験をして生きてきたんだ。

いまさら女子中学生ごときに感じるものなど何もない。

自意識過剰になってんじゃねえ。

 

そもそもだ。

わたしに近づく理由が分からない。

なぜならわたしが乗る電車は、早朝で下りだからそれほど混まない。

ガラガラとはいわないが、彼女らがこれほどわたしに接近しなければならない状況にはない。

 

ということはだ。

この3人は、自らの意思でわたしに近づいていると判断するのが妥当だ。


彼女らの狙いは何だ?

 

三つの可能性が考えられる。


一つ目。彼女らは痴漢詐欺のグループだ。

厄介なことに、わたしをターゲットとして痴漢冤罪に仕立て上げようとしている。


しかしそれでは、わたしに盗撮されていると勘違いして睨んでくる女子の態度に矛盾が生じる。

もしわたしを冤罪にしたいのなら、わたしが痴漢をしやすいような状況を自ら作り出すはずだ。

従ってこの線は消えるだろう。

 

二つ目は、彼女らにとってこの場所が非常に重要であるということ。


彼女たちには、どうしてもわたしをこの場所から移動させたい何らかの理由があるに違いない。

だから近い距離でわたしを囲み、わたしにプレッシャーに与え続けているのだ。


そういう場合、理由として考えられることは一つしかない。

わたしの立っているこの下に徳川の埋蔵金が埋まっているのだ。

ムゥッ! さてはお前ら糸井重里の手の者か!!


ムゥじゃねえ。そんなはずはほぼにちないからこの線も消えるんだ。

 

となれば、残るは三つ目しかない。

彼女らの誰か、あるいは3人全員が、わたしに好意を抱いているということに相違ない。


わたしがそう言っているのではない。状況証拠がすげえ雄弁にそう物語っているのだ。


それならば話は早い。

わたしがやるべきことは一つだ。


まずスマホジーンズのポケットにしまう。


代わりにバッグから文庫本を取り出して、少し伏し目がちに読み始める。


時おり顔を上げ、物憂げな表情で窓の外に視線を移す。


「変わんねえなぁ、この国も……」とつぶやく。


そしてまた本に視線を戻す。

 

完璧。

わたしに淡い恋心を抱くいたいけな女子の夢を壊さぬよう、ダンディフェロモン出力MAXで精一杯カッコつける。

それがこの状況でわたしがなすべき事だよ。


対面の女子がなぜわたしを睨むのかが解決されていない?

あぁ、それは簡単だ。

わたしがあまりに眩しすぎて、目を細めずにはいられないのさ。


あぁ困った。この女子中学生たち、何とかしてくれないかな。