俺があいつを見返す日。

俺があいつを見返す日。

わたしがある人を見返すための意思表明として立ち上げたブログです。日々のこと、夫婦のこと、子育て、商品レビューなど、なんでも。

あの時。あの言葉を君に伝えられていたら、僕らの関係は変わっていたのかな。

高校3年生の時。わたしには同い年の彼女がいました。坂井真紀さんのアゴをちょっとだけアイーンとさせた感じの、ショートカットの小柄な女の子でした。

坂井真紀さんを知らない人は、うーんどうしようかな。お手数ですけど、ご自分で適当なショートカットの女性を思い浮かべてもらえます?

でもどんぐりさんと牧野ステテコさんだけはNGで。すいません全然キライじゃないですし、一定以上の好感も持ってます。ただ、見ていると何だか気持ちが不安定になるんです。漫☆画太郎画伯のマンガを見ているようで。珍遊記サイコー。過去に映画版もレビューしているので、よろしかったら読んでください。

 

 

 

 

わたしは高校入学と同時に始めた空手に、人生の全てを捧げていました。その事は自分でも誇りに思っていたし、もちろん後悔もありません。

でも高校3年生の秋になって、ふと考えてしまったんです。残り僅かな高校生活を、恋人もいないまま終わらせてしまっても良いのかと。

そんな時に友人の紹介で出会ったのが真紀でした。あ、坂井真紀さんに似ていたので、ここでは彼女の事を真紀と呼ぶことにしました。

わたしと真紀は互いに一定以上の好感を持ったので、すぐに付き合うことになりました。

 

そしてあれは確か3回目のデートの時。とあるファミレスで、テーブルを挟んで真紀と向かい合わせで座った時の事です。海老ドリアを注文する真紀の姿に、一つだけいつもと違う点がありました。真紀の鼻から鼻毛が出ていたのです。


見る者に畏怖の念すら抱かせるほどに長く真っ直ぐな鼻毛が、迷いの欠片もなく大地に向かって伸びていました。

もしかして真紀は意図的にこの鼻毛を伸ばしていたのでしょうか。 それならば、このレベルの長さの鼻毛が抜かれる事も切られる事もなく、今まで鼻の中で温存されていた事の理由がつきます。

だとすれば疑問が残るんですよ。真紀はなぜ今、このタイミングでその秘蔵っ子の鼻毛をわたしに披露したのか。

だってまだ3回目のデートですよ? 今はもう変なおじさんに成り下がっている46歳のわたしですけど、この時はキスはおろか手すら握っていない。そんな1/3の純情な感情しか持ち合わせていなかったプラトニックボーイのわたしに、この状況を打破しろとはあまりにヘビー過ぎるじゃないですか。


それともこの鼻毛には何か重要なメッセージが秘められているのでしょうか。それは鼻毛ではなくマザーシップとの交信に使用するアンテナで、地球侵略の指示を送受信しているとか。実は真紀は8代目鼻毛真拳の伝承者であるマキマーキ・マキマキとか。


ハッ! もしかしてわたし達(←達?)は重大な考え違いをしていたのかもしれない。鼻から出ている毛じゃない。毛こそが本体なんだ。即ち毛から出ている鼻…毛鼻か!? いや待て。もっと俯瞰で捉えれば、毛から出ているのは鼻ではなく真紀という事になる。そうか…これは鼻毛ではなく毛真紀だったのか!!


なんていう妄想をしてしまうほどに、わたしは現実に向き合うことを拒否していました。あぁ。ここに金八先生がいてくれたら良かったのに。そしてわたしを諭すように優しく、そして力強く言って欲しい。


「鼻毛は出ていません。もう一度言います。鼻毛は、出ていません。いいか先生何回でも言うぞ。鼻毛は、出て、いないんです!」


わたしは目を閉じる。意識を集中させる。自分に暗示をかけてゆく。ゆっくりと、ゆっくりと自分に言い聞かせる。鼻毛は出ていない。鼻毛は出ていない…。鼻毛は出ていないんだ……。よし。だいじょうぶだ。真紀を見る。うん。出てる。出まくりやがっている。そりゃそうですよね。現実逃避だけで鼻毛が無くなりゃ誰も苦労しないんです。


めんどくせえなこの野郎。もうその鼻毛抜いちまうぞ忌々しい。それつまんでビッと引っ張った後に渾身の力を込めたデコピンでもお見舞いすりゃ、真紀も混乱して何が起きたかワケ分かんねえだろ。畳み掛けるように踊る大捜査線の和久さんよろしく少し溜め気味で「……なんてな」って言や、全て無かったことになるよ。きっとなる。和久さんの言葉にはそれくらいのパワーがあるんだ。

 

このまま気付かぬフリを続ける事は可能です。でもそれでは何も知らずに周囲から笑い者になってしまう真紀があまりに哀れじゃないですか。だからわたしは真紀に言いました。


「……トイレ行ってきなよ」


真紀は虚を突かれたような顔をしました。当然です。何の脈絡もなしに恋人にトイレに行くことを推奨されたら、誰でもそうなります。


「え、トイレ? 何で?」

「いいから。行ってきて。お願いだから。ダマされたと思って」


わたしの懇願が奏功したようで、真紀は腑に落ちないといった面持ちを見せつつも、トイレに立ってくれました。


きっと彼女は鏡を見て気づくでしょう。自分の鼻からものすごいモノが出ていることに。そしてトイレに行けと言ったわたしの真意にも。

真紀は恥ずかしさのあまり、そのまま店を飛び出してしまうかも知れない。或いはどうしてハッキリ言ってくれなかったのかと、わたしに怒りをぶつけてくるかもしれない。それが原因で、真紀との関係が修復不可能なものになってしまう恐れも。

でもわたしはそれでもいいと思いました。このまま彼女が周囲の笑いものになるくらいなら、わたしは喜んで汚れ役を演じようじゃないですか。

いや、綺麗事はもうやめましょう。真紀のためではありません。わたしがイヤだったんです。鼻毛を出している女子と一緒にいるところを周囲に見られるのが。

 

ほどなくして真紀がトイレから戻ってきました。


「おまたせー」


ルネッサーンス。どうしよう事情が変わっていない。

メーデーメーデー。何だチミは。トイレに行っても鏡を見ないのか? ミラーレス? ミラーレス一眼? ミラーレス真紀? カルーセル麻紀? もうどうでもいいや。


それからしばらくしてわたし達は別れました。

理由はハッキリと覚えていません。徐々に会う頻度が減っていき、それに対して少なくともわたしは何の危機感も感じていませんでした。恐らくは真紀も同じだったのでしょう。最後は自然消滅です。


真紀との別れに、あの鼻毛事件は一切の関わりがなかった。そう思いたいですが、言い切る自信はありません。きっとわたし達は別れるべくして別れたのだと思います。


でも一方でこうも思うのです。

もしあの日あの時「え、鼻毛出てるよ?」その一言を面と向かって真紀に伝える事が出来ていたなら。わたしにその勇気があったなら。真紀とわたしの関係は、何か変わっていたのだろうかと。


うーん。うまくオチがつかないですね。

でも大丈夫です。そういう時に使える最強の魔法をわたしは知っているんです。行きますよ?

 

だっふんだ!

 

……なんてな。