俺があいつを見返す日。

俺があいつを見返す日。

わたしがある人を見返すための意思表明として立ち上げたブログです。日々のこと、夫婦のこと、子育て、商品レビューなど、なんでも。

早口ホームセンター。

急ぎ必要な物があったので、開店に合わせてホームセンターに行った。


勝手知ったる店なので、迷わず売り場に直行して商品を手に取り、レジに向かった。


レジにいたのは20代後半くらいの男性。短めの黒髪をセンターから分けた吉田松陰風の醤油顔。以後この男性をSさんとする。


私「お願いします」


S「フーゴース」


私「え?」


S「フーゴース」


私「はい?」


S「フーゴース」


私「フ……?」


Sさんが執拗にフーゴースなるモノを推してきた。フーゴース。フーゴース。どうしよう。全然分からない。聞いたこともない。


数秒間の戸惑いの後に思い至った。フーゴースなどというモノは存在しない。Sさんが異様なまでの早口で何かをしゃべっているのだと。


そうと分かれば話は簡単だ。わたしは瞬時に答えを導き出していた。「フーゴース=袋ご入用ですか?」に違いない。


だが確信は持てなかったので、少し控えめな声で「袋ください」と答えた。するとSさんが商品を袋に詰め出したので、どうやら正解だったようだ。

 

ホッと胸をなでおろしたわたしは、続けて言った。


私「Suica使えますか?」


S「アーツース」


私「なんて?」


S「アーツース」


私「アー……」


繰り返しになるが、これもSさんの早口だ。どうやらSさんは、日常的にこの発語スピードで客とコミュニケーションを取っているらしい。


だが数々の修羅場を切り抜けて来たわたしには、赤子の手をひねるも同然だった。今のご時世、大抵の店舗でSuicaは問題なく使える。わたしは「アーツース=あぁ、Suica使えます」であると結論づけた。

 

フーゴースに加えてアーツースまで攻略された事に焦りを覚えたのか、Sさんの早口は留まることを知らない時の中でいくつもの移りゆく街並みを眺めていた。


Sさんは次の技を繰り出してきた。


S「ローハース」


フッ。どんな大技を繰り出してくるのかと思えば。もうタマ切れか?

大丈夫だ。今までの流れから、ローハースは支払い金額の事だと容易に想像できた。そもそも金額はレジに表示されているし、わたしにはチャージ金額をたっぷり残したSuicaがある。問題はない。


わたしはSさんを完璧に攻略している自分に酔いしれていた。この調子でラストまで一気に駆け抜けるつもりだった。


私「Suicaでお願いします」


S「アーツース」


私「!!」


何だと? なぜここで再びアーツースを出してくる? わたしの読みに誤りがあったというのか? いや、そんなはずはない。落ち着いてもう一度だ。


私「あ、Suicaでお願いします」


S「アーツース」


なぜだ! そんなはずはない! アーツースは「あぁ、Suica使えます」の意ではなかったのか!?


しかしわたしは、ここで一つの可能性に思い至ってしまった。


私「もしかして……Suica使えないんですか?」


S「アーツース」


私「……」


ウンコでも我慢しているのか? だから早口なのか?レジカウンターでよく見えないが、Sさんあなたはいま内股か?  トイレ行ってきなさい。待っているから。わたしはずっと待っている。


それとも観たいテレビ番組の録画予約をし忘れたか? なら今すぐお母さんに電話して録画をお願いしなさいよ。え? お母さんは機械に詳しくないから録画を頼めない? 知らんよそんなのもう。Gコードがあるでしょうが。Gコードなつい。昭和時代最高。


そんな妄想劇を繰り広げながら、Suicaが使えないわたしは久しぶりに現金で支払った。財布に入れたまま、ずっと使われる事のなかったシワシワの一万円札を出した時、ちょっとだけ恥ずかしかった。


弱ったわたしを狡猾なSが見逃すハズはない。Sは畳み掛けるように最後の大勝負に出た。


S「ラーカーモ」


うるさいなバカ。いい加減にしろ。もうウンザリなんだよお前には。


私「すいませんけどね、さっきから早口すぎて何て言ってるのか分かんないんですけど!?」


S「ラーカーモ」


私「だから分かんないんだってば! もう少しゆっくり言ってもらえません!?」


ここまでハッキリと意思表示すれば、さすがのSも早口を是正してくるかと思いきや、ヤツは驚きの行動に出た。

何とレジ付近に貼ってあった楽天ポイントカードのステッカーを、指でコンコンと叩き出したのだ。


早口をやめるくらいなら口を閉ざすか。その意気や良し。誉れを失うくらいなら死を選ぶと言わんばかりのその姿、まさしく侍。それはそれとして「ラーカーモ=楽天ポイントカードはお持ちですか?」だったのか。これは難問。持ってねえよクソが。

 

レジを終えたわたしは、その足でサービスカウンターに赴いて店長さんを呼んでもらった。


わたしは店長さんに今あった事を出来る限り正確に伝えた。そしてSさんの話も聞いてもらった上で、コミュニケーション方法について指導をしてくださいとお願いした。


ただしSさんの話を聞いた結果、何ら指導の必要ナシと店長さんが判断されたのなら、それでも結構ですとも伝えた。でもちなみに店長さんはこれ知ってますかと。


フーゴース


アーツース


ローハース


ラーカーモ


店長さんは全問不正解だった。そういうことですと。指導をするしないはお任せしますが、一つ言えるのは、その成績では店長さんもSさんとコミュニケーションは取れませんよと。

そう言い残し、わたしは店を後にした。

 

帰りの道中、車を運転しながらわたしは考えていた。

朝マック買って帰ろうと。